「我が子に今の仕事を胸張って説明できますか?」と社長は僕に言って会社をやめた。「35歳からの独立日記」vol.1




 

中年ITサラリーマンの平和な日常は突然に….

週明けの月曜朝9時半。

いつも通り僕は会社にいた。

僕は、都内のIT会社に勤める普通の中年サラリーマン。

主にウェブに出す広告や、キャンペーンなんかを作っている会社に勤めている。

毎朝8時台にちゃんと満員電車に乗り、ちゃんとスマホで興味のあるニュースだけチェック。

ちょっと早めにオフィスに到着して、いつも通りレッドブル。

ベルトに少しのってきたウエストについた肉を落とすために、

オフィスの椅子の代わりに導入したバランスボールをボヨンボヨンさせながら、

部下からの報告チャットや、お客様のメールに目を通していく。

同じフロアにいる営業部隊から、

「昨日は飲みすぎた〜」

「今月の数字がまだ未達なんだよ〜」

みたいな気だるい声も聞こえる。

本当にいつも通りの朝。なのだが、

実は、大きく変わったことがあった。

それは、今月から僕の会社は株主が大きく変わった。

そう「M&A」されたのだ。

かと言って、特に何かが変わることもなく。社名もそのまんま。

何事もなかったかのように日常は過ぎていった。

というわけで、僕はいつも通り休みボケの頭と目を抱えたまま、

その週もゆっくりと仕事モードのエンジンをかけつつ、

パソコンのディスプレイを見ていた。

しかし、

事件はその後の「週の定例会議」で起きた。

「来月、僕はこの会社を辞めます。」と社長は言った。

急に社長がみんなの前でこの言葉を言った瞬間、

本当に会議の椅子から半分転げ落ちそうになった。

半分寝ながら会議の資料を眺めていた僕だったが、

そんなの資料のどこにものってなかったぞ。

社長は言葉を続ける…

社長「ちなみに、辞めた後、一ヶ月半ほどハワイに行く予定です。」

社員たち「ざわ….ざわ….」

社長「今までありがとうございました。」

いやいや、、ハワイて!?と心の中でツッコミながら、マジで説明が足りない社長に聞きたいことが山ほどあった。

会議が終わって誰よりも早めに、僕は社長のデスクに向かった。

ボク「社長!急に辞めるってどういうことですか?ハワイぃいい?!」

と、聞いたボクに社長はまぁまぁ、と席をすすめた。

僕が座るのを確かめてから、社長は椅子を回して僕の方に向き直っていった。

社長「いや、本当に急な発表になっちゃいましたが、辞めよっかな〜。って思ったんですよ。」

ボク「いやいや、社長が辞めるって他の社員たちはどうすればいいんですか?」

社長「まぁ、なんとかなりますよ。ま、言ってみれば、ボクももう社長といっても雇われですから 。」

ボク「でも、まず社長がいなくなるなんて…なんでですか?!」

社長「だって、僕のやりたいように、今の会社ではできなくなっちゃったんです。僕のやりたい仕事はここにいたらできないんですね。」

ボク「…。」

社長「ボクさんは、自分で自信が持ってやれていない今の仕事を、我が子に胸を張って説明できますか?」

ボク「…。それはできないと思います。」

社長「そういうことなんです。だからすいません。辞めます。」

その時に、僕は結婚はしていたが、まだ家庭に子供はいなかった。

気楽な夫婦生活を営んでいたが、その時の社長の言葉は「家族の長」としての真っ当な意見に思えたのだ。

そう言われてぐうの音も出なかった僕は、すごすごと自分のデスクに戻った。

もし、僕に子供ができたら…社長と同じことを考えるのだろうか。

その後、新しい社長がM&Aのお偉いさんの意向により決められ、

社長はハワイに飛び立った。

僕の胸中はずっとざわついたままだった。

(続きます。)









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